100編書いてみよう
創作教室は半年で終わったが、私の書きたい気持ちは終わらなかった。文章を書くのはとても苦手だったが、つぎつぎ浮かんでくる空想を書かずにいられなかった。まずは100編書いてみよう。本にならなくてもそれでいいと思っていた。
歩いていても、お風呂に入っていても、空想(妄想といってもいい)はあとからうかんできた。遊びまわっていた友だちの顔。家の周りのぽかぽかしたあたたかな空気。草のにおい、ありんこ、魔法使いと名づけた羽の生えた黒い虫。それらがまるですぐそこにあるように感じられた。
あのときの喜びは、私の人生の中でもたぶんマックスだったのだろう。そして、いまも書きつづけていられるのは、あのマックスをふたたび味わいたいからだと思う。
はじめて書かせてもらった保育絵本のタイトルは『ねむってなんかいられない』だった。
ねむってしまったら、つぎに起こる楽しいことを見過ごしてしまう。そんなふうに思う男の子と動物たちが、まくらをかかえて、外に飛び出していく話である。
眠くても眠くても夢の世界をみるまでは・・・。それはもしかして私のことかもしれない。
◆プロフィール◆
戸田和代(とだ かずよ)
東京の牛込に生まれる。児童合唱団を経て現在もコーラスを続けながら、絵本や幼年童話を書いている。『ないないねこのなくしもの』(くもん出版)で日本児童文芸家協会新人賞。『きつねのでんわボックス』(金の星社)で浜田広介賞。