今回は犬にまつわるショートストーリーをお届けします。
文は田村理江さん、挿絵は小野寺美樹さんです。
初 恋
犬の名前なんて、知らなかった。
風子(ふうこ)はまだ小学2年生になったばかりで、犬は全部“ワンちゃん”だったから。
「風子ちゃんがもし犬だったら、ダックスフンドね」
そう言ったのは、3丁目の登校班のリーダー・麻梨香(まりか)さんだ。
風子の住む4丁目班とは、途中で合流することがよくあり、今日もいっしょになって、笑いながら言われた。
4丁目班のリーダーは、麻梨香さんと同じ6年の勇斗(ゆうと)さん。
風子は低学年のくせに、いつも勇斗さんと並んで、先頭を歩いた。べつに活発な性格だとか、目立ちたがりという訳でなく、“勇斗さんの隣”にいることが重要だった。
だって、勇斗さんが大好きだから。去年、入学して登校班に入れてもらえた時から、四つ年上の勇斗さんにあこがれていた。
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