その日以来、風子はボルゾイに夢中になった。マンション暮らしで犬は飼えないので、画像を印刷して、部屋にはった。本物の勇斗さんの顔は、照れくさくて、まともに見られないけれど、ボルゾイの姿はいくらでも見つめられる。
想いがさらにヒートアップしたのは、秋のこと。登校時、風子のランドセルにつけた、ピンポン球ほどのリンゴ型防犯ベルの紐が切れ、坂道を転がり、あわや車道に飛び出す寸前、勇斗さんがダッシュでつかみ取ってくれた。その姿は、しゅんびんなボルゾイそのものだった。
勇斗さんの手から返された防犯ベルは、風子の宝物になった。
翌年、勇斗さんは小学校を卒業した。会う機会はめっきり減ったけれど、同じ町内だから、通りでぐうぜん見かけたり、ショッピングセンターですれちがうことがあった。向こうが気づいた時は、「やぁ」と優しく声をかけてくれた。
風子は、それだけでじゅうぶん、幸せだった。
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