第3回犬の日特集③

風子の胸が、ズキンと痛む。
勇斗さんが、この町から出て行ったのは知っていた。
ひと月ほど前の、ちょうど今と同じ下校時刻、大きなリュックを背負った勇斗さんを、自分の目で見たのだから。車道に沿ったこの道から、ひっそりした裏道へと曲がって行く後ろ姿。変わらないボルゾイのような、シュッとしたシルエット。

あの時、風子は班の子たちに「ちょっと待ってて」と言って、ランドセルから、だいぶくたびれたリンゴ型の防犯ベルを外し、裏道へ向かって、思いっきり放り投げた。

勇斗さんは気づきもせず、道の先へと進んで行く。そこは3丁目で、かべの切れ目から、やはり大きなリュックを背負ったきれいな女の人が出てきた。ひと目で、麻梨香さんだとわかった。
二人はしっかり手をつなぎ、遠くへ遠くへ、走り去って行った。

「ねーねー、リーダー」
ハッと“今”にもどる。3年の女の子が風子を見上げていた。
「リーダー、質問していいですか? ネコと犬、どっちが好きかアンケートをやってるの」
「うーん・・・」
風子は少し、くちごもってから、
「ネコ」
と、短く答えていた。
(おわり)

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