『もらった子ネコ、かえします』
中村文人・文
みろかあり・絵
CATパブリッシング
2021年1月刊
❖穏やかな日常は大きく揺らぐ
この作品を読み終えたとき、胸の奥にそっと灯るような、静かで温かな余韻が残りました。物語の登場人物は、ある日2匹の子ネコを引き取ったひとりの女の子と、その女の子を見守るお父さん。描かれているのは、ただの親子と子ネコの物語ではなく、「大切なものを手放す痛み」や「本当の気持ちを伝えることの難しさ」といった、誰もが一度は向きあう心の葛藤です。
子ネコと一緒に暮らしたくて、お父さんを説得しようとする女の子の様子や子ネコを迎えいれる嬉しさは、思わずこちらまで笑顔になってしまうほどの純粋な気持ちがにじみ出ています。しかし、そんな穏やかな日常は、突然訪れた女の子の入院によって大きく揺らぎはじめます。お父さんは仕事に追われながら、子ネコたちの世話、そして入院中の娘のサポートに懸命に向きあう日々。やがて、「子ネコを手放す」という選択が現実として立ちはだかります。
お父さんが「2ひきをかえそうと思う」と問いかけたとき、女の子はお父さんの提案にうなずきます。でも、それは決して本音ではありませんでした。お父さんにこれ以上負担をかけたくないという思いやりからの返事だったのです。そのやさしさの裏にある本当の気持ちに気づいたとき、読み手としての私の胸も締めつけられるような切なさでいっぱいになりました。
(次のページに続く)