あっという間にボクは車に乗せられた。ボクが暑いようーって鳴いていると、運転しているらしい男がどなった。
「うるっせえなあ。ちょっと静かにしてくれないかよ、ボビー」
「こいつは暑いんだよ。ひもをといて息ができるようにしてやろう」
「そんなことしたら、ふくろから出てきてあばれまわるぞ」
「いや、心配無用だ。ふくろをつりさげておけば大丈夫さ、ほら、こうしてな」
車はあの大理石をいっぱい運んできた小型トラックのようだ。
らんぼうな音を立てて夜の道を走り続ける。
ボクは鳴くのを止めた。泣いたってしかたがないよって自分に言いきかせた。ボクはまた未知の世界に連れていかれようとしているのだ。
夢の中の天使がボクにささやく・・・
「さあ、勇気を出すんだよ。ボクがついてるんだもの。何にも怖がることはないんだよ」
そうとも、この男たちがまさかボクを殺すわけでもあるまい。
「かっさらってきたけど、お前と二人だけで山分けするには、こうする意外なかったってわけだよ。ごめんな、ニコレッタ!」
そして二人は声をあわせて笑った。
きっとボクは売られていくんだ。もしかしたら食べられてしまうのかも。体がふるえ、心臓がどきどき音を立てていた。
やがて車は止まった。
「おい、着いたようだぜ。ベルをおして我々の到着を知らせるんだ」
「よしきた!」
一人は車からとびおりて、ベルをおしているようだった。
「夜分失礼、お約束のもの、おとどけにまいりましたよ!」
ぎーっと門のひらく音がして、やがて車が中に進んで行く気配がした。そして人の声が遠くから聞こえて来た。
こっちに向かって、急いで歩いてくる気配だ。
「ほら、この猫ちゃんですよ。さあ、ボビー、ふくろから出ておいで」
もと船乗りはうって変わったようにやさしい口調で言った。
「ボビーですって?」