誰が時計を止められる?

文と絵・田村理江

最後の望みをかけて、腕のいい修理屋さんが駆けつけてきた。
「故障している物を動かすのが、わたしの仕事なんだ。止めるなんて、初めてだ」
と、ぶつぶつ言っている。
止めるほうが簡単そうに思えるけど、
「うーーーん」
やっぱり無理みたいだな。いじりすぎて、かえって動きがはやまったような。

サロンに集まった人たちの顔が、だんだん青ざめてきた。
「やがて時計は2分前になり、1分前になりーーー」

パパが、重たく口を開いた。
「そして、わたくしたちは消えるのです。時計を動かした我々、大人たちは仕方がないとしても、子どもたちまで巻きぞえにするのは胸が痛む」
ママのすすり泣く声が、サロンにこだました。
パパは、言葉をつづける。
「さぁ、みなさん。もう、家へもどってください。残された時間を、家で心落ち着けて過ごすのが、唯一の幸せでしょう」

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田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ