「思えば、この10年、おれはずいぶん働いた。おまえのむこになったころは、百姓の仕事なんて、何も知らなくて、モレとっつぁんから、何もかも、一から習わなくちゃならなかったんだ」
「ええ、ええ、大変でしたねえ。痛風だったおとっつぁんは、あんたがむこに来てくれて大助かりでしたよ」
「とっつぁんが死んでからは、そりゃ、もう、がむしゃらだった。こんな風に、ビールの一杯も、味わっているひまがなかったよ」
「そんな働き者のあんたのおかげで、びんぼうだった家も、今じゃ、村一番と言われるほど、豊かになったんですよ」
セムは、「うんうん」と、うなずきましたが、ふと、自分の指に目を落としました。そこには、今も、金色の指輪が光っていました。
セムの顔はくもりました。
「だが、この幸運も、決して、おれ一人の力じゃないんだ」
「ええ、もちろんですとも。神様のお力があったからこそですよ」
何も知らないサラが、にこにこ、うなずきました。
「いや、神様じゃないってこともあるんだ。悪魔だってことも」
サラは、ぎょっとして、ぬいものの手をとめました。