でも、セムは、「さあ、望みを言え!」「すぐ言え!」と、なかなか、許しません。
とうとう、サラは、
「だったら、子供ですかねえ。この上、子供がいたら、きっと、にぎやかで、楽しいでしょうから」
と、答えました。
「ふん! 子供だと! 王様にも、大金持ちにもなれるってのに、うるさいガキなど、おれはごめんだ!」
セムが、ますます、ふきげんになったので、サラは、困って、うつむきました。
「ああ、おもしろくもない! おれはもう寝るぞ!」
立ち上がって、ずかずか、台所を出て行こうとしたセムは、ひざの上のぬいかけを見つめて、サラがとてもさみしそうにしているのを見ました。
「えへん」
セムはせきばらいしました。
「決めたぞ! おれは王様になる。明日の朝、目がさめて、おどろくな! この家は立派なお城に変わっているぞ。おまえは王妃様だ。もう、針仕事なんか、しなくていいんだ。みんな、めしつかいがやってくれるんだからな。きれいなドレスを着て、うまいものを食って、ぜいたくざんまいだ。わかったな!」
セムが、こう、早口に言い立てると、サラは、顔を上げ、
「はい、楽しみにしていますよ」
と、ほほえみました。
「よし!」
セムはえらそうにうなずきました。でも、台所を出る時、ふと、ふり返って、
「それからな」
と、ねんをおすように、付け加えました。
「町の市場で買って来てほしいものを思い出したら、朝までに、納屋にいる手伝いのこぞうに言っておくんだよ」
とびらを閉めると、サラのくすくす笑いと、「どこまで本気なのやら」というつぶやきが、細いろうそくの明かりといっしょにもれてきました。