2025クリスマス特集⑥ クリスマスに、ほしいもの

つぎの週末、ひとつ年上の、おとなりのおねえさんが、ひっこしのあいさつに来た。
「沙良ちゃん、今までなかよくしてくれて、ありがとう。これ、わたしが大事にしてたんだけど、友情のしるしに、あげる」
さし出されたのは、ちょっとよごれたペガサスのぬいぐるみ。よりによって、おんなじものなんて・・・。タンスの上で、ペガサスのまん丸い目が六つ、沙良をじっと見つめている。かわいい。
だけど、タンスにランドセルを乗せるスペースがなくなったのは、ちょっと不便・・・。
「いいんだ。わたし、ペガサスが大すきだもん」

つぎの週末、商店街の“年末福引き”イベントに出かけたお兄ちゃんが、
「おーい、沙良」
もどってきて、ドアの向こうで、じまんげな声をあげている。
「大当たり、出したぞ! すごいだろ」
ドアを開けると、そこにいたのは、ペガサスのぬいぐるみ!
「一等だぞ。カランカラン、ベルが鳴って、みんな、うらやましそうだったな。けど、これ、おれのシュミじゃないから、おまえにやる」

手わたされたペガサスを、沙良は複雑な気持ちで、ギュッとだいた。
かわいいペガサス。ほしくてほしくて、たまらなかったペガサス。
なのに、その夜、沙良は夢を見た。ペガサスだらけの部屋で、おしつぶされそうになっている夢。
来週の木曜日は、いよいよクリスマスがやって来る。ペガサスが大すきな沙良だけど、プレゼントは、「黒ネコがいいな」と思ってしまうのも、しょうがない、よね?

おわり

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田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ