元旦のお茶
お正月の朝、一番先に目ざめたつもりなのに、キッチンへ行くと、もうおばあちゃんが起きていた。
「明けましておめでとうございます! おばあちゃん、早起きだね」
重箱に紅白のかまぼこを並べていたおばあちゃんは、
「鈴(すず)ちゃんは、もっと寝ていてよかったのに」
と、やさしくほほえむ。おばあちゃんの身体からは、いつもお茶の香りがする。
リビングの柱時計が、ボーンボーンと六つ鳴った。真冬の朝6時は、まだ薄闇に包まれている。
「だって、おねぼうすると、2026年がみんなより、減っちゃうでしょ」
7歳になった今年、鈴は初めて、鎌倉のおばあちゃんの家でお正月を迎えた。鈴の父は去年の秋から外国で働いていて、母がお正月の期間だけ父を手伝いに行ったから。
おばあちゃんはお茶の先生で、『雪後庵(せつごあん)』という名の小さな家を、お庭に持っている。今日は、そこに来るお客様のために、暗いうちからお節料理をこしらえているらしい。
「鈴ちゃん、あとでお茶を飲みましょうね。もうしばらく待ってね」
「お茶? いらない。オレンジジュースが飲みたいな。昨日のおそば、からかったんだもん」
「お正月のお茶はね、大福茶(おおふくちゃ)っていって、飲むと1年間、健康でいられるのよ」
「ふーん、おまじないなのね。じゃあ、お料理が終わるまで、外で遊んでる」
「外じゃなく、お庭だけにしなさい。ご近所のみなさんは、まだ寝ているのだから」
はーい、と元気な返事を残し、鈴は庭に出た。空気が冷たい。今年最初の朝と思うからか、空気まで新しい清らかな感じがする。鈴は背のびして、まだ暗い空に向かい、
「あけまして、おめでとー!」
と、さけんだ。
(次のページに続く)







