竹格子の門から茶室までの飛び石を、今度は鈴が先にぴょんぴょんはねながら進み、おねえさんがついて来る。飛び石の行き止まりにある小さな茶室に着くなり、おねえさんは、感嘆の声をあげた。
「いつ見ても、すばらしいお茶室ですこと」
鈴は不思議だった。わらぶき屋根の古びた家がステキだなんて。おねえさんは、茶室のそばの石でできた手水鉢(ちょうずばち)にかがみこみ、鈴の手をすすいでくれた。それから、口をすすぐ水もくんでくれた。
「うわっ、ひゃっこい。氷みたい」
でも、オレンジジュースより、おいしいかもしれない。
茶室の入り口は“にじり口”と呼ばれ、小さくてせまい。まるで子ども専用のとびらだ。おねえさんはその戸を、音もなく開けた。おねえさんの袂(たもと)の間から中をのぞくと、畳敷きの小さな部屋は、こわいくらいシンとしている。
「クンクンクン、去年の空気が残ってる」
鈴はそう思った。去年といっても、ほんの数時間前なのだけど。
からだをかがめて中へ入り、炉(ろ)をともすと、部屋は命をとりもどしたように明るくなった。
「釜(かま)に若水(わかみず)を入れましょう。今年もおいしいお茶をいただけるように」
「ふつうのお水とちがうの?」
「今年一番にくんだ井戸水なの」
おねえさんは茶釜の真正面にすわり直し、もう一言もしゃべらなくなった。茶せんをまわす音だけが響き、鈴は緊張してきた。
「いいのよ、リラックスして。お茶は楽しくいただくものだから」
おねえさんの笑顔が、鈴をいつもの鈴にもどす。おばあちゃんから習った作法で、重い茶わんを持ち上げ、小さく二回まわし、
「おいしい!」
三口で飲み終えた。
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