お菓子の家
名の知れた和菓子屋に生まれた一人息子だから、ケイトは店を継ぐことを期待されて育った。思春期の激しい反発を経て、それなりの製菓学校へ進んだ頃には、和菓子への愛も少しは芽生えていた。
物心つかないうちに母をなくしたケイトは、折に触れ、母を知る従業員たちから、
「あなたのお母様は、本当に和菓子がお好きでしたね」
と、聞かされ、顔も知らない母を喜ばせたい気持ちも、どこかにあったのかもしれない。
粉を練る技、形を造るセンス、商品化する能力まで持ち合わせていたケイトは、ネオ和菓子と呼ばれる、宝石のようなお菓子を生み出して、店をさらに発展させた。
何もかも順調に進んだ。父が引退して、ケイトが社長になり、働き者の妻を迎え、娘と息子が生まれた。
40歳を目前にした朝、新しい和菓子の材料を調達するため、ケイトは自ら車を飛ばして、里山を目指した。そこの畑で採れる豆が、どうしても欲しかった。