『ばらいろのかさ』
アメリー・カロ 文
ジュヌヴィエーヴ・ゴドブー 絵
野坂悦子 訳
福音館書店(世界傑作絵本シリーズ カナダの絵本)
大人が好きな絵本を買って、くつろぎの時間にゆっくりページをめくり、しばし日常の雑事から解放される・・・、そんな風潮が、定着しつつあります。
『ばらいろのかさ』は、まさに「大人」、それも「女性」の心を癒してくれるロマンティックな文と絵の本です。
舞台は、その町に一つしかないカフェ。主人公は、そのカフェのオーナー・アデル。水玉エプロンの可愛らしい女性。
彼女は、町の人とおしゃべりをするのが大好き。にぎやかなことが大好き。太陽のような存在で、いつもニコニコ。
だけど、雨の日だけは、どうもダメなんです。薄暗い景色に、人一倍、心が沈み、まるで別人のように、やる気がなくなってしまう・・・。
そんなアデルの様子は、完璧でない分、どこにでもいる普通の女性に思えて、読者の気持ちがグンと近づいていきます。
雨に心をへこませたアデルも、天気が変わり、おひさまが射しこむと、元の明るいアデルに戻って、カフェは大繁盛。
店内販売のために、定期的に野菜や花を売りに来る青年・リュカは、ぶっきらぼうだけれど、いつもアデルを気にかけています。
ある雨の日、店を閉めた後、アデルは店の片隅に、きれいな「ばらいろの長靴」を見つけます。誰かの忘れ物? でも、持ち主は現れず、しばらくすると、今度は「ばらいろのレインコート」が忘れられていました。いったい誰の? 奇妙なことに、靴もコートも、アデルのサイズにぴったり。
つぎの雨の日には「水玉もようのばらいろのかさ」まで見つかり、こうなるともう、「単なる忘れ物」じゃない、これはメッセージなんだってわかります。贈り主は、もちろん「あの人」。
アデルは「ばらいろ」のレイングッズに身を包み、夕暮れの雨の中、思いきって外へ出てみました。そして、そこで出会ったのは・・・。
絵本のラストは、もちろんハッピーエンドです。ばらいろの長靴の底についたマークは、そんな終わり方を暗示していました。
ラブストーリーだけれど、ドラマティックな展開もなければ、派手な仕掛けもありません。でも、恋愛で大切なこと――どんな時でも、そっと相手に寄り添い、見守り、支える、そんな静かな情熱が、ページからあふれてきます。
ゴドブーの色鉛筆タッチの温かな絵や、シンプルな人間の表情が、お話によく似合います。お茶を片手に、このほんわかした絵本を読んだら、きっと心が休まりますよ。