ワタリガラスの王子
それ以来、しばらく、いすに挑戦する者はとだえました。
そりゃそうです。
どんなに美しい人と結婚できたって、死んでしまったら、全然、意味がありませんものね。
ところが、それからしばらくたったある日、とてもハンサムな王子がやってきたのです。
どのくらいハンサムかって、そりゃ、もう、すれちがう人、だれもが、ふり返って、ため息をつかないではいられないほどのハンサムでした。
ただ一つ、ふしぎなことは、その王子のぼうしには、黒い、ぶきみなワタリガラスの羽がさしてあったことでした。
お城に入り、王女の美しさを目にした王子は、
「ううむ、なるほど、こういうことか」
と、つぶやいたきり、しばらく、言葉を失いました。
「どうじゃな、ワタリガラスの王子殿? わが娘を妻にと、お望みかな?」
王様は得意顔です。
「はい。ぜひに」
王子は、深く、頭を下げました。
すると、王様の目配せを合図に、王女は、すらすらと、あの決まりきったせりふを言いました。
「100日間、窓の下のいすにすわり通したなら・・・」
「かならず、おおせの通りに」