『みずうみ』
千葉智江 作・絵
大日本図書
この作品は、私が旅行中の船の中の図書館で出会った絵本で、優しいタッチの絵と読みやすい文章にも惹かれました。
主人公のゆうかは、ある日、船のおもちゃを壊してしまい、おかあさんに怒られてしまいます。そしてゆうかは、涙を流して泣き続け、いつしかその涙はみずうみになってしまいました。やがて、涙のみずうみに鳥が水を飲みにやってきて、他の動物や船のおもちゃを持った男の子もやってきます。しかし男の子は船のおもちゃをみずうみに沈めてしまい、ゆうかと同じように、涙を流して泣き始めました。その時、ゆうかのとった行動は・・・?
ゆうかは、おもちゃの船を壊して泣きましたが、わざと壊したわけではありません。涙のみずうみにやってきた男の子も、おもちゃの船をわざと、みずうみに沈めてしまったわけではありません。二人ともそのおもちゃの船が大切だから、涙を流して泣いたのでしょう。
大切なものをなくしたり、壊したりしたら、悲しくなるのは大人も一緒です。しかし大人になると、泣きたいのを我慢したり、強がったり、言い訳をしたりして、素直に涙を流すことができません。
ゆうかの流した涙のみずうみが、もし強がりや言い訳で流した涙なら、キレイな水を好む、鳥や動物たちが水を飲みに来たりはしなかったでしょう。真実の涙や、キレイな心の持ち主には、自然と清い心の持ち主が集まるのだと思います。
ゆうかの素直な心は、おかあさんの心にもきっと届いたことでしょう。
この絵本を読んで、自分の小さな頃のことを思い出しました。まだ、ものの道理がわからず、ゆうかみたいに怒られたことは、いっぱいあったと思います。素直にあやまっていたのか? 悪知恵が働いて、おかあさんを困らせたのか? 母が元気なうちに、いろいろ聞いてみたいな、と懐かしい気持ちでいっぱいになりました。
この作品は優しいタッチの絵で物語が描写されていて、ゆうかの気持ち、動物たちの気持ち、船のおもちゃを持った男の子の気持ちが表されています。そしてゆうかが壊してしまった、おもちゃの船の行く末も!
それぞれのページの描写も隅々まで必見です。この絵本を手に取って、ずっと眺めているだけで大人も癒される、不思議な優しい気持ちに包まれる作品です。