『おやつどろぼう』
阿部 結・作
福音館書店
025年1月刊
❖盗まれたおやつが山積み
先日、ひとりでコーヒーを飲んだ後、ふらっと立ち寄った街の小さな本屋で、1冊の絵本に目を奪われました。優しい色使いの表紙には大きなショートケーキ。どこか懐かしさを感じさせるそのビジュアルに惹かれ、何気なく手に取ってページをめくり始めました。すると、そこにはまるで自分が子どもの頃、夜中に台所へ忍び込んだ記憶が蘇るような、心温まるストーリーが広がっていました。
主人公は、夜中にお母さんが隠したケーキを探して冷蔵庫を開けます。ところが、冷蔵庫の中で奇妙な生き物がケーキを盗むところを目撃。勇気を振り絞り、冷蔵庫の奥へと足を踏み入れると、なんとそこには盗まれたおやつが山積みに。主人公が大好きなケーキを取り返す冒険が繰り広げられるそのページを、私は夢中でめくり続けました。
この絵本を読んで、私は自分が子どもの頃に感じた「夜の秘密」の特別な感覚を思い出しました。家族が寝静まった後、静まり返った台所の中で感じるわずかな音や冷蔵庫から漏れる光。その空間がまるで別の世界の入り口のように感じられたことを鮮明に思い出したのです。この絵本では、その独特の空気感がとても丁寧に描かれていて、まるで自分が再び子ども時代に戻ったかのような気分になりました。