『ぼくは川のように話す』
ジョーダン・スコット 文
シドニー・スミス 絵
原田 勝 訳
偕成社
2021年7月刊
❖表紙に引き込まれる感覚は
図書館の本棚である本を探していると、一冊の表紙が目に飛び込み、思わず息をのみました。小学生くらいの男の子が目を閉じ、腰より高い、流れのはやい川の中をゆっくりと歩いています。それは、吃音(きつおん)を生きる男の子の物語。ページを開く前から、耳の奥で「ざばざばぁ」という水音が響き始めます。表紙に引き込まれる感覚は久しぶりでした。
ページをめくると、男の子の学校での日常、家族とのやりとり、自然の景色が、流れに乗って溶け合っていきます。言葉が思うように出ないときに向けられる教室での視線、少年の身が固くなる瞬間、緊張・・・読んでいてキュっと心が締めつけられます。絵と言葉のリズムに、読む私にも緊張が広がっていくのを感じました。
この本は、吃音の子どもが自分の体験を綴った絵本です。その「話し方」を“川”に重ねる比喩は見事で、途切れたり、渦をつくったり、光を受けてきらめいたり、深みに潜ったり、言葉の流れにもそんな多彩な表情があることを教えてくれます。
読み進めるほど、子どもが抱えた痛みや悲しみが確かな手触りをもって伝わり、“体験”できるつくりだと気づきます。それと同時に、絵と言葉は決して急がず、「そのままの流れでいい」「ありのままの話し方でいい」と静かに肯定してくれるのです。
(次のページに続く)