朝のさんぽからもどってくると、ちょうどボクの食事のじゅんびができたばかりだった。
「ドロがこないうちにはやく食べてしまうのよ。ジロ、わかった?」
りつ子さんは言い、出かけてしまった。
ボクが食べようとしたときだ。・・・ふとふりかえってみると、ああ、やっぱり。ドロが怖い顔をしてボクの鼻すれすれに顔を近づけていたので、震え上がってしまった。
「ほらね、君のために手をつけないでとっておいたんだよ。どうぞ」
ボクが身をひく前に、ドロはもうガツガツと食べはじめた。
ガツガツ、ガツガツ、すさまじい。かいぶつのようだ。
ボクは柱のかげから、息をひそめてながめているだけだった。
そして、半分くらい食べてしまったころ・・・・。
キィ、キィ、キィーと、ステファノのヴァイオリンがサロンからきこえてきたのだ。あのモーツアルトのれんしゅう曲が。
おやっ? ドロのガツガツがぴたりと止まった。酔ったように、頭を上げてきき耳をたてているようだった。
ドドソソララソー、ファファミミレレー・・・
ドロはいきなりドアの方に向かってとっしんした。そして、食べたものをゲーゲーはきちらしたのだった。
ヴァイオリンの音色がキィ、キィ、キィーと、まだきこえてくる。
ドロはくるったように体をよじって、走り去っていったのだった。
ジロとドロとヴァイオリン(4/7)
文と絵・すむらけんじ