『どーしたどーした』
天童荒太 文
荒井良二 絵
集英社
私と同じ愛媛県出身で、高校の後輩にもあたる天童荒太さん。シリアスな人間模様の小説をお書きになることの多い天童さんが、どんな絵本を作られたのか気になって手にしたのが、この絵本と出会ったきっかけです。
主人公のゼンは、どこにでもいる小学3年生の元気な男の子。その口癖は『どーした』。
あまりにも「どーした」を連発しすぎて、周りの人から嫌がられたり、迷惑がられたりしますが、ゼンは全然気にしません。家族にはもちろんのこと、風船が飛んで行ってしまった女の子や、ベンチで泣いている女の人といった知らない人にも平気で「どーした」を連発する毎日です。
そんなある日、ゼンは登校途中に、公園で見知らぬ少年に出会います。その少年が、ハロウィーンのメークみたいな赤と青の色の顔をしているので、ゼンはいつものように尋ねます。「どーした?」
そのうち、いつの間にか、ゼンの「どーした?」が周りの人を巻き込んでいきます。「どーした?」が大きな力となって巻き起こすこととは・・・。
この絵本のテーマは「児童虐待」。ともすれば、重く暗くなりがちなストーリーを、荒井良二さんが、明るくのびのびと美しい色彩で、ゼンの子ども目線から描いています。
便利な世の中になって、本当なら、昔より時間の余裕ができているはずの私たちですが、「忙しい」を連発し、大切なことを後回しにしたり、他人のことには無関心になってしまっています。
また、大人になって、つい“この人は間違っている”とか“これが正しい”という自分の意見を押しつけがちにもなったり。固定観念にとらわれず、子どもの頃のような自由な発想ができると、みんなが幸せに生きられるのではないかしら。そんなことをゼンは教えてくれます。
こんな風に、大人が読むと、忘れていた大切なことを思い出す絵本でもあります。
荒井さんが「“子供には難しい”みたいなことを言われたりもするんですけれど、大人が勝手に決めるなよと(笑)」とおっしゃっていますが、その通りだと思います。“大人向けの絵本”、“子ども向けの絵本”と大人が判断するのではなく、幅広い年齢層の方に読んでいただきたい絵本です。
“ほんの少し周りの人に注意を払い、一声かけるだけで、世界を変えることができること”、“言葉には短くてもそれだけの力があること”を肌で感じるのではないでしょうか? この絵本を読んで、優しさへの第一歩を踏み出してください。
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