『12月くんの友だちめぐり』
ミーシャ・ダミアン 文
ドウシャン・カーライ 絵
西村書店
「ぼくってなに?」「誰かの役に立っているの?」
疑問を抱えた月の精霊「12月くん」は、友だちの大風に勧められて、自分探しの旅に出ました。他の月を訪ねてみることにしたのです。
「なんて風変わりな絵だろう」というのが最初の正直な印象でした。なんで、また、巣箱の帽子なんか、かぶっているんだろう。それに、赤いトンガリ鼻(これが付け鼻!)の理由は? 彼の行く先々、びっしりと埋め尽くす艶やかな花々。ユーモラスな人々。動物たち。緻密この上なく描き込まれ、密集して、わっさかわっさか、押し寄せて来るのに、少しの圧迫感もなく、さわやかで、開放感に溢れているのは、なぜ?
画家の名はドウシャン・カーライ。東欧を代表する絵本作家で、日本でも何度か展覧会が開催されています。近年は夫人と共に、4年の歳月をかけて、アンデルセン童話のすべてに挿絵を描くという大事業を成し遂げました。
さっそく、3月を訪ねた12月くん。
「冬は終わったよ。耳をすませてごらん。春を告げるユキワリソウの鐘の音が聞こえるよ・・・」
すっかり仲良しになった3月に、春の祭りに誘い出されます。おいしいねじりパンやイースターの卵。涙のでるほどおかしな道化芝居やメリーゴーランド・・・。おやまあ、青空には小さなコップたちも楽しげに飛んでいます。リボンや楽器、絵筆や木工品まで。それらは、カエルやマーモットと同じくらい生きていて、少しの違和感もありません。画家の世界では何者も既成の枠に閉じ込められることなく、それぞれが自由でありながら、見事に調和し合っているのです。
「ありがとう、3月くん。きみの国はなんてすできなんだろう」
3月と別れて、次の月へと向かう12月。一緒に旅する私たちは、世界のみずみずしさに驚き、人生にはどれほど楽しいことが溢れているかに気づかされます。そして、おのずと優しい気持ちでいっぱいになるのです。これを読む子供たちも、きっと、月の精霊たちに導かれて、他者への思いやりに目覚めていくことでしょう。
まだ字も読めない娘に私は「メェー、メェー」とか、「ガラン、ガラン」とか、適当なお話をくっつけてページをめくってやりました。20年後、その娘から「お母さんはいい絵本を選んでくれてたんだね」と感謝されました。ドウシャン・カーライの展覧会に行ったよと、大風に乗った12月くんのポストカードで。
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