『おかあさんだもの』
サトシン 作
松成真理子 絵
アリス館
「いってきまーす!ママ、すぐに迎えに来るからね!」
娘が保育園に通いはじめた頃のことです。園に着くやいなや、泣きはじめる我が子。なんとか先生に抱っこしてもらうのですが、「ママちゃーん!」と真っ赤な顔で泣きじゃくり、体をのけぞらせ必死でこちらに手を伸ばしてきます。笑顔でさっと教室を出るのですが、心の中は罪悪感でいっぱい。
保育園のフェンス越し、ハンカチを握りしめながら、娘の様子を伺っていたものでした。
それが1か月ほど経った頃でしょうか。いつものように泣かれるのを覚悟で教室に入ると、なんと娘が自分から先生に手を伸ばしました。そして、泣きながらもバイバイできるようになったのです。
「あのこもあんなに頑張っているんだ。私もいつまでもクヨクヨしていないで、与えて貰った時間を大切にしっかりしなくちゃ!」
娘の成長を目の当たりにし、ハンカチをぐっとポケットに入れ保育園を出ました。
そんな時、出会ったのがこの本です。
つらいことがあっても、なきたいことがあっても
あのひのことをおもいだせばだいしょうぶ
あたたかく優しい水彩イラストで描かれた本作は、あるおかあさんのわが子を思う気持ちからはじまります。そして、「あなた」がうまれた「あのひのこと」を、我が子に優しく語り掛けるようにして紡がれていく物語。
そろそろかなっておもったの よなかだったよね
ふあんがおしよせてきたけれど かくごをきめたのよ
陣痛がはじまり、冷たい夜の風に吹かれながら、しっかりと厚着をして病院へ向かうシーン。そんな時でも、主人公が考えていたのは「あなた」も寒くないかしらってこと。そんな彼女だから、分娩室で聞こえるモニターの音が「あなた」からの元気だよっていうメッセージに聞こえたのではないでしょうか。
親子の数だけある「あのひ」の物語。私も読みながら、娘を出産した日を思い出し、愛しさがこみあげてきて涙が止まりませんでした。
おかあさんは、子育てに、家事に、仕事にと、めまぐるしい日々の中で、時間がいくらあっても足りません。そんな忙しさに飲み込まれてしまいそうなとき、ぜひこの作品を読んであげてください。親子でページをめくる度、子供たちは自分がどれだけ愛されて生まれてきたのかを知ることができるでしょう。
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