『12歳5か月の戦没者 ヒロシマ 8月6日、少年の見た空』
井上こみち 文
すがわらけいこ 絵
学研プラス
本書を手にしたとき、怖くて数日の間、ページを開くことができなかった。テレビで原爆投下のドキュメンタリー番組を何度も観ているにもかかわらずだ。
本書のページを開くときも、やはり手が震えた。原子爆弾で命を奪われた12歳の少年・三重野杜夫(みえのもりお)君にスポットを当てた記録作品だったからだ。
杜夫君は、軍人のお父さん、やさしいお母さん、2人のお姉さんに囲まれ、元気に、そして幸せいっぱいに育つのだった。
しかし、お父さんの任務の都合で引っ越しを繰り返し、ついに鎌倉から広島の地に移り住むことになる。当時広島は食料が手に入り、関東に比べ空襲もなかったという。
広島市の中学校の1年生に転校した杜夫君は、しばらくすると勤労動員に駆り出される。
作業は、空襲があった時に家の類焼を防ぐための建物疎開。人力で木造家屋を壊していくのだ。
夏の太陽が照りつける中、作業に励む杜夫君たちを襲ったのが原子爆弾だ。1945年8月6日8時15分のことだった。
12歳の杜夫君はじめ10数万人の人々が亡くなる。その多くが非戦闘員、つまり一般の市民だったのだ。
原爆が投下されたあと、家族は杜夫君を必死に探す。しかし行方不明のままついに見つからなかった。絶望の中、息子を探すお母さんはどんな気持ちだっただろうか。小さいころから遊んだり、ケンカをしたりしていた弟のことを案ずる2人の姉はどんな思いだっただろうか。詳しくは本書をひもといてほしい。
『犬やねこが消えた』~こんな悲劇があったことを忘れてはならないのレビューでも書いたが、戦争は人を狂気にかりたて、そして誰をも幸せにすることはない。
戦後70年という節目の年に日本が守り続けてきたものが崩れようとしている。そして現存する戦争体験者が少なくなっているいまこそ、親子で本書を読んでほしい。戦争の恐ろしさや命の尊さを知るためにも。本書と同著者の作品『犬やねこが消えた』と合わせて読むことをおすすめしたい。
(2015年8月3日記)