ポポポーっと、ハトはかたを落としました。
「いいなあ、あんたたち、ネコは。自由自在に生きていて。その上、死に方までかっこいい。それに比べて、町のハトの死に方なんて、ひどいもんだよ」
その目から、ぽろりと、なみだがこぼれます。
「どういうこと?」
ハトは、以前、1羽の年老いた仲間が死んだ時のことを話しました。
ある寒い朝、そのハトは、冷たくなって、ペデストリアン・デッキにころがっていました。
「そしたら、手ぶくろをした人間がやってきて、カナバシでかれをつまみ上げ、ぽいっと、ゴミぶくろに入れて、持って行ってしまったんだ。私の最後もあれかと思うと、本当に情けないよ。いっそ、あんたに食われっちまった方が、ゴミといっしょに焼かれて、けむりになって、空をよごすより、よっぽどましだよ」
「なるほど」
チェシャは、やっと、ハトが自分に食べてほしいと言った気持ちが分かりました。
「だけど、それしか、方法はないの? ゴミになるか、ネコに食われるかしか? ハトは神様からとりわけ愛された鳥なのに?」
「え、そうなのかい?」
「え、知らないの?」
チェシャは、いつか、物知りのヨハンソンさんから聞いた話をしました。ヨハンソンさんは、いつも、人間に話しかけるように、チェシャに、いろいろなことを語って聞かせるのです。
「大昔、大洪水(こうずい)があってね。人も動物も困っていた時に、1羽のハトの勇気がみんなを救ったんだって。それで、神様は、ごほうびにと、特別に、ハトが天使たちと同じつばさを使うことをゆるしたんだそうだよ」
それにしては、年寄りの仲間をいじめる町のハトどもは、ずいぶんと、ばちあたりなのですが。
「別の方法がないわけじゃないんだ。私にはとてもできそうにないってだけで・・・」
ぼそっと、ハトが言いました。
「というと?」
と、身を乗り出したチェシャの目は、暗やみの中で、2つ星のように、キラキラ、光っています。