10 消えたチャッピー
「つまり、中園さんというのは架空の人物だった。そういうこと、だろ?」
猿神さんは満面の笑みを浮かべる。
「そういうことは、もっと早く言えよ! 今さらだが、よく来たな、黒岩。ウエルカム!」
キラキラと輝く瞳に、喜びがあふれる。
「それにしても、猫嫌いだった先輩が、いつの間にそんな猫好きになったんですか?」
不思議がる黒岩さんに、
「ワシは猫好きではない! チャッピーが好きなんだ!」
機嫌よく答え、
「おいで、チャッピー、ワシたちのステキな未来に乾杯だ! さて、チャッピーを連れてこよう」
と、おこたの部屋へ行く背中にも幸せが張りついているようだ。
「オレ、見えない敵も、深まる謎も、一瞬だけあっちに置いて、BGMによろこびの歌を流してあげたくなっちゃいました」
「見えない敵、深まる謎、って?」
黒岩さんが、真顔で首を傾けた。
「あれ、言ってなかったですか? 今日のお昼前、丹田さんって人からここに依頼がありまして、猫を捜しに出かけたんです。任務を終え帰ってきた、その後なんです、問題は。ぜんざいを食べている途中、猿神さんもオレも意識を失ってしまったんです」
「えーっ、そんなことが・・・」
「オレたちの推理では、丹田さんが出してくれた缶コーヒーに眠り薬が仕込んであったのでは、と。ですから、オレたち、丹田さんの家に確認に行ったんです。するとそこには、『売り家』のはり紙が・・・。だれだかわかりませんが、猿神さんを狙っているだれかの仕業だと思います」
「うーむ、まさしく、見えない敵だな」
「はい。それに、ここに居るチャッピーの捜し主、中園さんが情報コーナーに伝えた電話番号も住所も嘘っぱちだった」