WEB版 Sweet Harmony展(2/3)

文・田村理江   絵・小野寺美樹

家にもどったケイトを、皆が泣きながら迎えてくれた。ひと月ぶりの帰宅だと言われて驚いた。朝、出たばかりと思っていたのはケイトだけだった。地図を見たら、ほおずき坂など無い。

「不思議な家だった」
主の優しい笑顔やマカロンの作り方を、ケイトははっきり覚えている。作ってみようとして、やっぱり止めた。夢物語を現実に持ってくると、昔話ではたいてい、良くないことが起きるのだ。

年月は矢のように過ぎ、ケイトも90歳になった。店の跡継ぎとして考えていた孫が、
「わたし、クリームとか大好きだから、可愛い洋菓子屋を開くつもりなのよ」
と、言い出した。ケイトはもちろん、反対するつもりだ。

「おじいちゃんは、和菓子以外は興味ないんでしょ?」
「いやいや。わしだって、マカロンが作れるぞ」
あの不思議な朝以来、一日たりとも忘れたことのないマカロンを、孫に作ってみせた。美味しかった。あの時の味だ。

「すごいわ! サイコーよ! おじいちゃん、誰に教わったの?」
「母さんだよ」
ケイトは、すんなり答えていた。あれは、ケイトの知らない若い母さん。本当は和菓子よりも洋菓子が大好きで、それでも店を支え、ケイトを今まで遠くから見守ってくれた母さん。うすうす気がつきながら、心にずっと秘めてきた。

「おまえの洋菓子屋が出来たら、このマカロンを置いてくれ」
反対しなけりゃいけないのに、誰かがケイトに、そう言わせた。
もちろん、母さんだろう。
「えっ? いいの? 和菓子じゃなくていいの? やったー!」
はじける笑顔で抱きついてきた孫が、ケイトには、あの朝の母に思えた。
(おわり)

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ

小野寺美樹 について

(おのでら みき)1995年千葉県生まれ。学習院大学経済学部経済学科を2017年の春卒業して、出版社勤務予定。2012年春から毎年、『BOOK展』(ギャラリーウシン)に絵画作品やポストカードを出品。