ある日の夜中、滑り台の下で寝ていた女の子は、ひそやかな物音で目を覚ましました。
「泥棒!」
すぐそばに、黒い人影。影はビクッとして、「ご、ごめんなさい」と、素直に答えました。
月明りで見えたその人は、ワンピースを着た若いOLさんでした。
「私のこと、覚えてる? 前に、自分の50年分のカードを売りに来たでしょ?」
「ふんふん」
「あの時は結婚式直前にフィアンセに逃げられちゃって、絶望してたから」
「ふんふん」
「でも、フィアンセは詐欺師だったの。それを突き止めてくれた結婚式場のマネージャーと仲良くなって・・・。お付き合いすることになったの。だからカード、返して」
女の子は眠そうな目でおさげ髪をいじりながら、一言。
「売れ残ってたから捨てちゃった」
OLさんが青くなります。でも、女の子は平気な顔。
OLさんが今度こそ、本当に絶望的な様子で泣き出した時、女の子は言いました。
「あれ、ただの落書き」
「だって・・・3年分のカードを買った従弟のお父さん、めちゃくちゃ元気になったのよ」
「それはその人の生きる力。あなた、これから先も50年以上、元気よ」
「ほんと? 安心したわぁ」
翌朝、女の子へお菓子のおすそわけをしようと公園へ寄ったOLさんは、きれいに片付いた滑り台の下をのぞきこんで、夢のような気持ちになりました。