粘土で出来た人形の指先に、その一滴を垂らす。
明日は月に一度のバザーが広場で開かれるから、これを持ってって売る。毎月、そうしてる。SNSで死にたいと書き込む女の子たちが、喜んで買っていく。
指先をなめたら、簡単に夢が叶う。ぼくは天使になれる。
「おお、おまえの部屋は埃っぽい」
おばあちゃんが屋根裏に上がって来て、人形を一瞥した。
「そいつは、おまえとそっくりじゃないか。悪賢い顔だ」と乾いた声で笑う。
ぼくは人形に「クラウス」と名前をつけた。戦争で離ればなれになった双子の兄さんという設定にしよう。
この人形だけは売るのを止めて、ずっと一緒にいるんだ。
戦争がもっとひどくなったり、どうしようもなく寂しくなったら、神様にするみたいに、兄さんの指先にそっとくちづけをしたっていいよね?