霧の深い朝だった。遠い地域の知らない道を、寝ぼけた頭で運転していた。
「ありゃ、カーナビが壊れた。スマホも圏外か」
間が悪い。道は上り坂で、だんだん狭くなってくる。
「夜みたいだな」
霧が、光も風景も覆い、ほんの少し先さえ見難くなっていた。あたりに他の車の気配もない。
「ちっ、まったく」
ケイトは車から降りて、懐中電灯を片手に歩き出した。ほおずき坂の看板が現れ、ほどなく、やわらかな灯り。
「家がある。甘い香りがする」
引き寄せられた家は、夢のような『お菓子の家』だった。色とりどりのマカロンで出来ている。
「いらっしゃい」
ほがらかな若い女性が出てきて、ケイトを招き入れた。立往生していることを伝えると、
「すぐに晴れますから。待つ間、退屈でしょうから、マカロンの作り方でも伝授しましょうか。私、得意なんですよ」
成り行きでマカロン作りを習った。出来たマカロンは、今まで食べたどのお菓子よりも美味しかった。ケイトは作り方をしっかり頭に刻んだ。外はもう、晴れてきた。