猫アンテナ狂想曲(14/15)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

「せ、成敗の前に、一言、言わせてください」
と黒岩さんが、猿神さんにみかんを渡す。
「なんだ?」
と猿神さんはみかんの皮をむく。
さすがだな。
黒岩さんは、猿神さんの取り扱いを熟知している。

「い、今さらかもしれませんが、丹田生代さんは、丹田不動産の社長夫人でした。ハナちゃんという猫と一緒に、あちこちの売り家を見回っているそうです。ただ、ハナちゃんが行方不明になったあの物件は、夫人のお気に入りで、頻繁に出入りしていたそうです」

犬田さんの催眠術と同じように、オレたちの推理もヘッポコだった。
丹田生代さん、疑って、ごめんなさい!
中園さんの住所が出鱈目で、携帯が繋がらなかった件だって、それは、必要なかったからだ。
オレがチャッピーを見つけ次第、犬田さんが接触する予定だったから。
結局のところ、真相は、どうしてあんなに大騒ぎしてしまったのだろうと、首をかしげたくなるほど、シンプルなものだったんだ。

「あの、でも、なぜこの状況に? どうして、みんなで、ぜんざいを?」
オレのつぶやきに、ソナさんの白い手があがる。

「実はワタクシ、アキラさんは、猫を見つけられたら、すぐにご自宅にお帰りになるだろうと思っておりました。ですが、いつまでたってもここから出ていらっしゃらないものですから、ずっと見張っておりました。みなさんが猫をお捜しになるご様子も、見ておりました。・・・そして、猿神さんが必死で猫をお探しになるお姿に、胸を打たれましたの」
オレたちが、家に入った後で、父さんに連絡を入れたソナさんは、チャッピーが犬田さんに連れられ、みあんに戻っているのを知った。

「ですからワタクシ、夜が明け次第、津軽さまのご了承を得て、猫をそっと返しておこうとこちらに伺いました。その折に、この方とお会いしましたの」
黒岩さんに手のひらの先を向けた。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。