エルとくるみとソラ(4/7)

文・七ツ樹七香  

それから数日たった、秋晴れの朝のことだった。
今日は祝日だ。平日の休みはあまりないので、くるみはなんとなくそわそわした気持ちでいる。
「今日は、スケッチ日和!」

庭にはり出したウッドデッキに出るなり、くるみはパッと顔をかがやかせた。キンモクセイの木の下には、ローズマリーの大きなしげみが育っている。さわやかな空に、こい緑がよくはえて、絵にするのにとてもいい。
くるみが画用紙と絵の具のセットを持ってきて、パレットに熱心に色を作っていると、大きいまどを開けたままだったのでソラがひょっこりと顔を出した。外のにおいをすんすんとかぐと、しばふの庭に飛び出していく。

「ちょっと、うろうろするとじゃまだよ!」
くるみがもんくを言うと、おうえんされたとでも思ったのか「オフッ!」ときげんのいい鳴き声を返して、ソラはおどるような足どりで庭で遊びはじめた。しばらくして落ち着くと、ソラはまたすっと部屋の中に入って、なにかをくわえてもどってきた。

「ソラ、ちゃんと足をふかないとダメだよ。え、ちょっとなに?」
ぬれた鼻面をぐいぐいとくるみに押しつけ、ソラはポトリとなにかを落とした。
水色のゴムボールだ。好きな人のところに持っていくと聞いた、あのゴムボール。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県在住 会社員勤務を経てフリーライター・(アマチュア)作家 新紀元社WEBサイト パンタポルタで記事・コラムを執筆するかたわら、WEBで小説を発表。公募活動にも力を入れる。『ピイのとんだ空』で日本動物児童文学賞 優秀賞。熊本県民文芸賞では小説部門を二年連続受賞。本賞で2019年に第1席を獲得した『ラスト・オテモヤン』は熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は作品集収録とともに朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、西の正倉院 みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞 大賞など。 児童文学から一般文芸まではば広く手がけている。動物が大好き。犬と小鳥と暮らしている。著書を持つのが夢。