エルとくるみとソラ(3/7)

文・七ツ樹七香  

ソラはあいきょうのある犬だった。
人が話していると、トコトコとよってきて、ちょこんとこしを下ろして楽しそうに耳を動かしている。人がなにを話しているのか、聞いているような顔つきだ。
ソラは6才のりっぱな大人で、やんちゃそうな顔つきなのに性格はおとなしく、とてもかしこい犬だった。

「ソラはいい子だねえ! おりこうさん」
お母さんがほめるのをうれしそうに聞いて、ぶんぶんしっぽをふりまわす。満足そうに口を開けて笑う顔は、やっぱりエルににている。

でもエルはゆっくりしっぽをふるタイプだったので、そういうところはちがうんだなとくるみが考えていると、ソラがじっとこちらを見つめているのに気づき、ふいっと顔をそらす。
ソラは残念そうに部屋のすみに去っていった。すると、お母さんがそばにきてないしょ話をするようにそっとソラを指差した。

「ねえ、くるみ見て。ソラ、いつもあのボールをそばに置いてるの」
ソラは部屋のはしで、前にエルが使っていたクッションの上に丸くなっている。そのそばには、ソラの宝物だという水色のゴムボールがあった。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。