あの子 ーーBOOK展2023より

文と絵・田村理江

同窓会の開催日は、参加者が一番多い日に決まるそうで、当日には学級新聞を探してコピーして配るから、と幹事は言った。
その電話が律子のノスタルジーを目覚めさせた。
「学級新聞、私も実家を探せば・・・」
あるかもしれない、と思った。実家は律子が独身時代から変わらず。かつて律子の部屋だった二階の一部屋も、物置部屋になってはいるが、押入れの中は手つかずのはず。

「自分の作った新聞がうれしくて、ファイルしていたのよ。きっと押入れにあるわ」
新聞委員のメンバーも、思い出した。リーダーシップのある山田君、流行に敏感な小西さん、書道が得意な清水さん、「それに、赤いメガネが似合う男の子・・・あの子、なんて名前だったかしら?」

ニックネームは覚えている。トロ君。背も小さくて、運動が苦手で、トロトロしているのだけど、愛嬌のある子。優しくて、何か困ったことが起きた時は、いつもそばにいて励ましてくれたような・・・。
実家を探したら、記憶通り、昔のままのファイルが埃だらけで眠っていた。開くと、≪卒業記念号≫と、元気な書き文字が目に飛び込んできた。

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ