いすから去った王子(2/7)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

また、60日もがんばった王子がいました。
照りつける太陽や、雨風にうたれて、昼間は、とても、ぐったりして見えるのに、一夜が明けると、元気にもどって、また、次の一日をたえるのです。

「どうも、おかしいぞ」
王女の父親である王様は、家来に命じて、一晩中、いすの上の王子を見張らせました。
すると、日が落ちて、夜がふけると、王子そっくりのかっこうをした家来が、こっそり、やってきて、王子と交替したではありませんか!
王子のそっくりさんがいすにすわっている間、本物の王子は、家来たちが森かげにしつらえたテントの中で、ごちそうを食べ、ゆっくり、休んでいたのです。

「なんたるひきょう者じゃ! さっさと、追い出せ!」
王子は、家来ともども、追いはらわれてしまいました。
それ以来、いすにすわった者は、王様の家来に、昼も夜も、きびしく、見張られるようになりました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに