次の日から、王子は、いすにすわり始めました。
10日、20日、30日・・・。
王子のそばには、王子がずるをしないか、見張っている者のほかは、だれもいません。
雨の日も、風の日も、焼け付くように暑い日も、こごえるような寒い夜も、王子は、歯をくいしばって、じっと、いすにすわり続けました。
50日たった時、王様が様子を見に、お城から出てきました。そして、一言、
「まだ、半分ぞ」
と、おどかすように言って、お城に入ってしまいました。
70日が過ぎました。
王子は、すっかり、やつれてしまい、かみも、ぼさぼさ。美しかった服も、色あせて、ぼろぼろ。
目だけが、ぎょろぎょろ、あやしく光って、王女のまどをにらんでいます。
「ひどいなりになったものだなあ。まるで、ぞうきんを着たフクロウじゃないか」
「ハンサムだったなんて、とても、思い出せないわ」
お城の人々は、こんなことを言って、気のどくがりました。
そのころになると、これまでで一番長くすわった王子を見ようと、あちこちから、人々が集まるようになりました。
「今度は本物かな?」
「いやいや、まだまだ」
などと、王子を遠巻きにして、がやがや、面白半分に、見物していきます。
「どこの王子様かな?」
「さあな。しかし、大した根性じゃないか! 今度はいけそうだぞ!」
「そうかなあ?」
「じゃあ、かけようぜ!」
という具合で、王子が100日間、がまんできるかどうか、人々の間で、かけが始まりました。
王子のまわりには、ますます、人が集まり、その集まりを目当てに、物売りのテントが立ち、まるで、お祭りのようなにぎわいです。