WEB版「BOOK& ~川越からの物語」展(3/3)

文・田村理江  

第三話 チョコレート

裏通りに、古びた店構えの駄菓子屋がある。
梅さんという名の、百歳に近いんじゃないかと思えるおばあさんが、一人で店番をしている。
近所の人たちは「あのおばあちゃん、いい加減、店じまいをしたほうがいいんじゃないの?」と心配するが、今のところ毎日、店は開いている。

だから卓哉も、毎日ここに寄り道して、百円チョコレートを買った。コンビニで買うチョコのほうが、ずっとおいしいけれど、この店だと「怪獣シール」のおまけがつくから。
卓哉にとって、目当てはシール。チョコのほうは、味にあきて、捨ててしまうことさえあった。

その日は、夏休み明けの始業式。お昼前に学校が終わり、卓哉はいつものように、駄菓子屋に飛んで行った。目指す百円チョコは、一個しか残っていなかった。
買おうとして腕を伸ばしかけたら、同時に、横から細い腕がのびてきた。

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ