おにぎりものがたり(3/3)

文と絵・伊藤 耀

絵本「おにぎりものがたり」第3話8場面「ずっとまえ、こうずいが あったでしょ」
と、うさかあさんが はなします。
「うんうん」
と、うさと うさとうさん。
「でんきや ガスが とまるまえにって、わたし、おかまいっぱいに、ごはんを たいたの」
「ああ、そうだったな。やかんにも、ふろにも、みずをいっぱいに はったしな。だけど、さいわい、わがやの ひがいは、そう、ひどくは なかったんだよな」
「そうそう。それで、たいたごはんが たべきれないから、おにぎりにして、おばさんのいえに もっていって もらったのよね」
「そうだったなあ。おばさんの いえは ひどくやられてしまったんだ。どこも かしこもどろだらけ。みんなで、せっせと、あとしまつしたけど、さむくて、きたなくて、だれもが まいっていたなあ。そこへ、かあさんの おにぎりがとどいたら、はたらいていた人たちが、『こんな おいしいおにぎりは はじめてたべたよ』って、なみだを ためて、よろこんで くれたっけ」
「へえ、そうだったの」
と、うさは かんしんしました。
「おかあさん、とても じょうずに にぎったんだね」
「いやいや、それより、すむいえを こわされて、なさけなくて、かなしい おもいを している ひとたちにとっては、にぎりたての あたたかいおにぎりが なによりの なぐさめに なったんだとおもうよ」
と、うさとうさんは いいました。
「ところがね」
と、かあさんは、ちょっとだけ、ほっぺを ふくらませす。
「あのあと、おじいちゃんたら、『わしの かってきた のりが うまかったからじゃ』って、じまんしてたのよ」
「おじいちゃんらしいよね」
3人は かおを みあわせて、ふきだしました。

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに