「ずっとまえ、こうずいが あったでしょ」
と、うさかあさんが はなします。
「うんうん」
と、うさと うさとうさん。
「でんきや ガスが とまるまえにって、わたし、おかまいっぱいに、ごはんを たいたの」
「ああ、そうだったな。やかんにも、ふろにも、みずをいっぱいに はったしな。だけど、さいわい、わがやの ひがいは、そう、ひどくは なかったんだよな」
「そうそう。それで、たいたごはんが たべきれないから、おにぎりにして、おばさんのいえに もっていって もらったのよね」
「そうだったなあ。おばさんの いえは ひどくやられてしまったんだ。どこも かしこもどろだらけ。みんなで、せっせと、あとしまつしたけど、さむくて、きたなくて、だれもが まいっていたなあ。そこへ、かあさんの おにぎりがとどいたら、はたらいていた人たちが、『こんな おいしいおにぎりは はじめてたべたよ』って、なみだを ためて、よろこんで くれたっけ」
「へえ、そうだったの」
と、うさは かんしんしました。
「おかあさん、とても じょうずに にぎったんだね」
「いやいや、それより、すむいえを こわされて、なさけなくて、かなしい おもいを している ひとたちにとっては、にぎりたての あたたかいおにぎりが なによりの なぐさめに なったんだとおもうよ」
と、うさとうさんは いいました。
「ところがね」
と、かあさんは、ちょっとだけ、ほっぺを ふくらませす。
「あのあと、おじいちゃんたら、『わしの かってきた のりが うまかったからじゃ』って、じまんしてたのよ」
「おじいちゃんらしいよね」
3人は かおを みあわせて、ふきだしました。
おにぎりものがたり(3/3)
文と絵・伊藤 耀