がめ島うらしま館(13/14)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

「分かりました。すぐに行きましょう。がめ島がしずむ前に新一ちゃんを助けなくちゃね」
美波夫人の言葉に、美波氏もうなずいて、車のキーをチャラチャラさせながら、表に出て行きました。
「おれらも行くぞ」
美波夫妻の乗った青色の車を、トヅカの赤い車が追いかけます。

その間にも、美里と大介は、はらはら、タブレットの時計を見つめました。
「ああ、30分、切っちゃった! がめ島が動き出してまう」
「だいじょうぶや。大介、ちょっと、まど、開けてみい」
トヅカが、にやにや、言います。

「え?」
大介が車のまどを開けると、ガガガガ、ゴゴゴゴと、にぎやかなエンジン音が飛びこんできて、たくさんの漁船ががめ島を取り囲んでいるのが見えました。
「さっき、お前のあにきがおやじさんに電話して、漁協の船、総出で、がめ島を止めてくれるよう、たのんだんや」
「ありがとう、おにいちゃん!」

トヅカは、びっくり、目をむきました。そして、
「おれ、大介が浩一を『おにいちゃん』と呼んだの、初めて聞いたかも!」
と、大笑いしたので、浩一は、ぽこんと、大介の頭をたたきました。
車を車道に置き、がめ島の前まで走ったみんなは、美波夫人ががめ島に向かって、りんと、立っているのを見ました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに