「カメよ、子どもをお返し!」
そのたった一声で、がめ島の巨大ウミガメがすがたを現し、こちらにおよぎわたってきました。
「あ、せなかにしんちゃんが乗ってる!」
ウミガメがこちら岸に、のっそり、上がると、新一はこうらをすべり下り、美里の方へ走ってきました。
「おねえちゃん!」
「しんちゃん!」
ふたりはだき合って喜びました。
カメは美波夫人の前に頭をたれました。
大つぶのなみだが、ぽろぽろ、こぼれています。
美波夫人はそのほほを優しくなでて、言いました。
「お前には悪いことをしましたね。でも、私は、太郎さんと、人間の世界で、とても幸せに暮らしているのよ。2人の子供たちも元気に育っています。竜宮へ帰り、そのことをお父様に伝えて。きっと、ゆるしてくれるはず」
美波夫人は貝がらの形をしたガラスのペンダントをカメの首にかけてやりました。
すると、緑の光が立ち上がって、ウミガメは美しく若返りました。
カメはおとひめに一礼すると、おとなしく向きを変え、海に入って、おどろいている漁船の間をゆうゆうとすりぬけ、沖へと消えて行ったのでした。