がめ島うらしま館(13/14)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

「カメよ、子どもをお返し!」
そのたった一声で、がめ島の巨大ウミガメがすがたを現し、こちらにおよぎわたってきました。
「あ、せなかにしんちゃんが乗ってる!」
ウミガメがこちら岸に、のっそり、上がると、新一はこうらをすべり下り、美里の方へ走ってきました。

「おねえちゃん!」
「しんちゃん!」
ふたりはだき合って喜びました。
カメは美波夫人の前に頭をたれました。
大つぶのなみだが、ぽろぽろ、こぼれています。

美波夫人はそのほほを優しくなでて、言いました。
「お前には悪いことをしましたね。でも、私は、太郎さんと、人間の世界で、とても幸せに暮らしているのよ。2人の子供たちも元気に育っています。竜宮へ帰り、そのことをお父様に伝えて。きっと、ゆるしてくれるはず」
美波夫人は貝がらの形をしたガラスのペンダントをカメの首にかけてやりました。
すると、緑の光が立ち上がって、ウミガメは美しく若返りました。
カメはおとひめに一礼すると、おとなしく向きを変え、海に入って、おどろいている漁船の間をゆうゆうとすりぬけ、沖へと消えて行ったのでした。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに