がめ島うらしま館(2/14)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

「みーちゃん、波消しんとこまで行こう!」
女の子たちとの遊びにあきた大介が、海水浴場と外海との境に置かれた波消しブロックを指さしました。
「え、あんなとこまで?」
「平気だよ。ほら、浩一のやつもいる」
なるほど、浩一が他の青年たちといっしょに、波消しブロックの上にゆうゆうと立っているのが見えました。
「行こうよ、みーちゃんも!」
大介を先頭に、女の子たちがおよぎ出しました。
「ぼく、行かない。おねえちゃんもやめなよ」
新一はしりごみしましたが、美里は女の子たちの後について、およぎ出しました。

(みんな、出来るんだから、あたしだって!)
でも、先を行く大介とのきょりは、どんどん、開いて行く上に、気が付けば・・・。
(あれ、あたしひとり?)
美里はおよぐのをやめ、その場に立とうとして、どきんとしました。
(わ、足が届かない!)
こわくて、心臓が破けそうでした。

がむしゃらに浜に向かっておよぎ、やっと、足の届く場所までもどった美里は、女の子たちが、あさせで、何事も無かったかのように、きゃあきゃあ、ふざけ合っているのを見て、泣きそうになりました。

その時、
「だいじょうぶか、美里ちゃん?」
と、声がしました。
顔を上げると、浩一が、のっと、立っていました。
「うん・・・」
「大介につられたらあかんよ。あいつ、ときどき、むちゃするから」
浩一はそう言うと、外海の方へ、すいっと、もどって行きました。
美里には、浩一が、ほんのふたかきほどで、波消しに着いたように思えました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに