がめ島うらしま館(5/14)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

5 うらしま館

5、6階ぐらいありました。
正面には大きな自動ドア。
そのかたわらに、チケット売り場のような小窓。
「こんなの、いつ、できたんや? お宮はどこへいった?」
大介はお宮を探しに建物の後ろに回って行きましたが、首をひねりながら帰ってきました。

「後ろには何にもない。入り口はここだけや」
「大ちゃん、ほら、これ」
美里と新一は、チケット売り場のはり紙を指さしました。
そこには白い和紙にすみの字で、「がめ島うらしま館」と、そっけなく、書いてありました。
「うらしま館? 何やろな」
「水族館だよ、きっと。前に遠足で行った松島水族館とそっくりだもん」
「大ちゃんが知らないなら、つい最近、出来たのね。職員さん、いないのかな?」
美里は小窓の奥に目をこらしてみましたが、だれもいません。
「どっちにせよ、おれたち、入れないや。お金、ないもん」
3人ともしゅんとなりました。のどがからからだったのです。
「帰ろう、海が元にもどらないうちに」
大介が鳥居に向かおうとした時、美里は、はり紙のすみに、豆つぶような字を見つけました。

「入場無料って書いてある」
「え、ほんと!」
大介が飛んできて、はり紙に目をこらしました。
「ほんまや。『サービスデイにつき、本日、お3人様にかぎり、入場無料』。すごい、おれたち、何てラッキーなんや!」
「そんな大事なことは、もっと、大きな字で書いてよね」
新一の声も上ずります。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに