がめ島うらしま館(6/14)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

画面にスタートボタンが現れました。
美里はまゆをひそめました。
「いやな感じ。ほんとに1時間を過ぎると時間が100倍になったりして・・・」
「みーちゃん、本気にしたんか? そんなわけないやろ」
大介は笑って、「よし、やるぞ」と、ボタンに手をのばしました。
「ちょっと待って。ぼく、おしっこ。まだ、始めないでね」

新一はあたりを見回し、少し先まで走って行って、ろう下の角を曲がりました。
「あ、しんちゃん、一人で行っちゃだめ」
美里は追いかけようとしましたが、
「だいじょうぶ。すぐにもどって来るって。先に始めよう!」
と、大介はスタートボタンをおしました。

グォン! ドロドロドロ・・・

巨大な車輪が回るような音。
建物がぐらっとゆれました。
美里と大介は、ぎょっと、顔を見合わせました。
「地しん!」
でも、音はすぐに止みました。
「びっくりしたなあ。何だったのかな、今の。ま、いいや。第1問。えい!」
1番のパネルがひっくり返り、問題が現れました。

「『第1問 浦島太郎が浜辺で助けた動物は何だったでしょう?』 あは、ちょろいな。答えはカメ!」
ピンポーン! と正解音。
1枚目のパネルが消え、青空と、だれか、人の頭の部分になりました。

「この人がだれかを当てるクイズなんか?」
「しんちゃん、早く、もどって来ないかな」
「次! 『第2問 浦島太郎の職業は何だったでしょう?』 簡単やな、父ちゃんやにいちゃんと同じ、漁師!」
ピンポーン!

「あたし、新一、見てくるね」
美里はゲームに夢中の大介を残して、ろう下の先、新一の消えた角を曲がりました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに