がめ島うらしま館(6/14)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

「あれ、ここ、トイレじゃない」
広いホールに4つのとびらが並んでいます。
とびらには「春」「夏」「秋」「冬」と書いた4枚の木札がかけてあり、のんびりした歌が流れていました。

「しんちゃん、どこ?」
みさきは「春」のとびらを開けてみました。
梅がさいていて、うぐいすが鳴いています。
「3D映像の部屋だ。でも、すごく、本物っぽい。しんちゃーん!」
返事はありません。

次のとびらを開けてみると、海がまぶしくかがやいて、潮風まで吹いています。
「秋」の部屋には紅葉の森に立派なオジカが、「冬」のとびらの向こうには寒そうな空とあらしの海が。
「大変だ、しんちゃん、このどこかに入って、迷子になっちゃったんだ」

美里は、あわてて、ホールの入り口までもどると、水そうの前でタブレットにかがみこんでいる大介にさけびました。
「大ちゃん、あたし、新一を探しに行かなくちゃ!」
その時、「ブッブー」っと、いやな音がして、巨大水そうがバリンと割れ、水が、どっと、あふれ出し、生き物のように大介をわしどかみにして、水そうの中に引きこんでしまいました。

「わあ!」
ぶくぶくぶく・・・
水そうのガラスはあっという間に元通りになりましたが、中に閉じこめられた大介は、どんどん、水底へと引きこまれて行きます。

大ちゃん!

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに