「今のうちだよ、大ちゃん!」
大介は、あらん限りの力でおよぎ上がります。
竜はたけりくるって、人魚たちをしっぽでなぎはらい、きばでかみ殺していきます。
「人魚、もっと、出て!」
死んで、木の葉のように、ひらひら、しずんでいく人魚たちがかわいそうだとは思いながらも、美里は指がいたくなるほど、タブレットの画面をたたき続けました。
「だめや、みーちゃん、あいつ、強すぎ。追いつかれる!」
「ああ、残っているのは酒だるだけ」
いのるような気持ちで、美里が酒だるのアイコンをタップすると、竜の頭上に酒だるが現れ、バチンと割れて、青色のものが水中に広がりました。
それが竜の顔にかかると、とたんに、竜はおとなしくなり、くねくねと、体をゆらし始めました。
「よっぱらっている。今のうちににげて!」
美里は受付のタブレットをスタンドからはずし、それを持って通路をかけぬけ、水そうのガラスにはりつきました。
じきに、美里の見えるところまで大介がおよぎ上がってきました。
ところが、ふらふらしながらも、竜がなおも追いかけてきて、大介の足にくいつこうとしました。