しかし、ある日をさかいに、いつもいっしょだったトオルがこなくなりました。そして、アカネからは、笑顔がきえました。アカネは、ひとりでやってきては、何も言わずにシマ吉をなでて、帰っていきます。
シマ吉も心配しますが、頭をなでやすいように首をもちあげるくらいしか、できることがありません。
(おれに話ができたらなぁ)
シマ吉のこころに、どんよりとくもがかかっていきました。
それから10日ほどたったころ、
「ババアカネ。ババクサ、みちくさ、だれもくわ~ん」
はやし立てる声とともに、アカネがシイの木へと走ってきました。
何人かの男の子たちもいっしょです。しかし、男の子たちは、シマ吉が顔を出すと「やーい、ヘビおんなー」とさけんで走りさっていきました。
アカネは、しょんぼりとうなだれて木のみきにすわると、「ハァー」と、大きなためいきをつきました。
シマ吉は、いつものようにアカネのそばに行くと、首をかしげました。
「みんな、アカネはへんだって、遊んでくれないの。アカネ、へんかなぁ」
(なに! そんなやつら、おれがもんく言ってやる。つれてこい)
シマ吉が「シャー、シャー」と答えます。
アカネは、そんなシマ吉の頭をなでると、ひとり言のように、話しつづけました。
「あーあ、トオルはいないし、つまんないなぁ」
アカネは口をへの字にゆがめました。
(トオルはどうした、ケンカか?)
シマ吉が、心配そうに見つめます。
そんなシマ吉の言葉がわかるかのように、アカネはつぶやきました。
「トオル、あのお山のふもとにひっこしちゃったんだ。ちいさいときから、ずっといっしょだったのに。・・・この辺がモヤモヤして気持ち悪い」
アカネは、胸のあたりをさすります。
(そうかぁ、それはさみしいなぁ)
シマ吉は、ぐじゅん、とはなをすすりました。アカネの思いが、いたいほどわかります。
「あーあ、トオルがいたらなぁ。どうしたら、また、トオルと遊べるんだろう」
アカネは、「どうしたらいいかなぁ」など、ぶつぶつとつぶやいていたかと思うと、
「そうだ! アカネが会いに行けばいいんだよね!」と、目をかがやかせました。
「山のふもとなんて、すぐそこに見えているし、近いよね。う~ん、もう、今日の帰りに行ってこよう! トオル、会いに来たらびっくりするだろうなぁ」
そして、うれしそうに白い建物にもどっていきました。
シマ吉は、むねがドキドキしてきました。山のふもとは、シマ吉でも3日はかかります。ましてや、車の走る道を、何度も横切らないといけないのです。アカネだけでそんなところに行って、どんな危険が待っているか、わかったのものではありません。
シマ吉の頭に、取り返しのつかない結果となった小さいころのぼうけんが、よみがえりました。
(こうしちゃおれん。なんとかしないと!)
シマ吉は、小さな頭を左右にふりながら、ああでもない、こうでもないと考えました。もやもやと、いろんな思いが頭をよぎります。
(これしかない・・・か)
シマ吉は、目をかっと見開くと、決意を固めるように、ゆっくりと、首をたてにふりました。そして、いそいでシイの木を後にしました。