「おい、リス! どこにいってやがった」
つけものを食べて元気が出たと思ったリスくんですが、イノシシ店長のこわい顔を見ると、やっぱりおどおどしてしまいます。
「おい、リス。かつおぶしの注文はどうした!」
「ち、注文は、あ、明日でもいいと・・・」
「オレが聞きたいのは、注文をしたのか、まだなのかだ。どっちなんだ。はっきりいえ!」
店長は、リスくんをにらみつけました。
「あ、あの、あの・・・」
「もう、いい! おまえみたいなやつがいると、ラーメンのスープがまずくなる!」
イノシシ店長は、まないたをたたきました。
「あ、あんまりだあ」
リスくんは、店をとびだしていきました。
「ヤギさん、ヤギさーん」
リスくんは目に涙をいっぱいためて、ヤギさんの前に立っていました。
「おや、リスくん。あの浅づけでは、あまりききめがなかったみたいじゃのう」
「うん、ぼく、いいかえせなかった。うえーん」
「おやおや、泣くんじゃない、泣くんじゃないって。もう一度この袋に口をあててごらん」
「店長、それはいいすぎですぅ」
茶色の袋はさっきのように、少しだけふくらみました。
「では、白のぬかでいくかのう」
シャカシャカ、シャカシャカ、シャカシャカ、シャカシャカ、シャカシャカ。
ヤギさんは、さっきより念入りにふっています。
袋から白いたくあんが一切れでてきました。
「さあ、お食べ。これで、はっきりしたことばで、はなせるようになれるはずじゃ」
「ありがとう、ヤギさん」
ポリポリ、ポリポリ。すると、リスくんのしっぽが、またぴんとしてきました。
「よーし、今度こそ、店長にガツンというぞ!」
「その調子、その調子。がんばるんじゃよ。そうそう、この袋をもう一枚もっていきなさい。なおしたいことばがあれば、またおいで」
ヤギさんは、リスくんを見送りました。
「おい、リス。この忙しいのに、なにをしてた」
イノシシ店長は、リスくんをにらみつけました。
「は、はい、すみませんでした」
「おい、リス! 明日の予約は何人だ」
「は、はい、あの〜、確かあ」
「すぐに答えられないのか! おまえは」
店長はよほど虫のいどころが悪かったのでしょう。「この、のろま」「なにやってんだ!」と店長は、リスくんにあたりちらしました。
いっしょに働いているシカさん、タヌキさんは、おこられないようテキパキ、ハキハキ。でもリスくんはおどおどして、ドジばかり。イノシシ店長は、そんなリスくんをきらいなのかもしれません。
――よーし、みてろ。つけものパワーだ!
リスくんは、ヤギさんのことばを思い出し、店長の前に立ちました。
「店長! ぼくだけにどうしてそんなきついいい方をするんですか? ぼくだって、いっしょうけんめい仕事をしているんですよ」
シカさんとタヌキさんは、その声にふりかえりました。リスくんがイノシシ店長に、はじめてはっきりと意見をいったからです。
「・・・・・・」
店長は、何もいえないようにみえました。
ところが、それはほんのいっしゅんでした。そのあとは「なんだとー、なまいきな」「オレのいい方が気に入らなければ、さっさとこの店から出ていけ」と、さっきよりきついイノシシ店長のことばが、リスくんにとんできます。
「うえ〜ん、ひどいよ〜」
リスくんは、目をまっかにして、またお店をとびだしてしまいました。