『サルビルサ』
スズキコージ 作
架空社
まずは表紙を見てもらいたい。ヤリのようなものを持った、人間らしいふたり組。そして、空には大きな黒い鳥。その真ん中に「サルビルサ」の文字。自由な画風に見えて、実は、厚く、熱く、繊細に、丁寧に塗られた絵。
私は、ときどき本屋巡りをするのだが、偶然出会った本書の表紙を見た途端、絵の構図や色合いの深さに、ぐいぐいと惹かれた。
「なんじゃこりゃ~」――ドラマ『太陽にほえろ!』で見た、瀕死の松田優作の名セリフを心で叫ぶと、私は本書を手に取り、すぐにページをめくった。
すると中には、表紙を超える熱さがちりばめられていた。
トビラを開く。表紙に描かれたひとりと同じ部族と思われる人物が「モジ」と叫んでケモノを追っている。さらにページをめくると、もうひとりの部族の人物が「ジモ」と叫んで同じケモノを追っている。それを空中から、大きな黒い鳥が見ている。
同じケモノを仕留めたふたりは、「サルビ」「カナズ」など叫びながら二手にわかれる。そして、それぞれの国に戻ったふたりは・・・。
我のみを正義と貫くことのむなしさ。妄信が生んでいく不信。
広がっていく「正義」と「正義」のぶつかり合いが導く結末。
「人」という同じ種族の中で繰り広げられる行為を、黒い鳥は、ただ、じっと空から見つめている。
ぜひ、本書を手に取って、スズキコージ氏の絵で、「サルビルサ」の世界を味わってみてほしい。ただ、一つ、注意をしておきたい。
この本には、日本語は一切ない。表現されている文字は、「モジモジ」、「ジモジモ」、「サルサ ビルサ」など。親切な注釈も何もない。ただただ、圧倒的な絵の力で、読者をぐいぐいと「サルビルサ」の世界に引き込んでいくだけだ。
私は、そこにも作者の意図を感じている。
言葉での交流ができるふたつの部族が選んだ結論。この部族たちが選び取った結末の意味を、「サルサ」、「ビルサ」の直訳ができない読者が感じ取ることができれば、世界にはまだ、希望が残る。
この本を読んだ子どもたちは、ただ言葉の響きの楽しさに、「サルサ」、「ビルサ」と叫ぶかもしれない。しかし、その心には、結末の意味が刻まれているはずだ。
私は、本書を読んだ子どもたちは、きっと、希望を紡いでくれると信じている。
仕留められたケモノがどうなったのか。
どうか、ワクワクしながら、そしてあなたのとなりにいる人との未来を考えながら、ページをめくってもらいたい。
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