東の空に、薄ぼんやりと月が出た。
遠くから、なにか、聞こえる。
騒めくような、人の声だ。
なにを言っているのかは、わからないが、お経のようにも、歌のようにも、聞こえる。
近づいてきても、方言が使われているからか、昔の言葉が混じるからか、やはり、意味はわからない。
聞いていると、物悲しいけれど、ちょっと元気になるような、ちょっと希望もわくような、そんな感じがしてくる。
「精霊舟を運んできたんや」
策作じいさんが、胸の前で手を合わせる。
いつの間にか、浜には大勢の人がいて、みんな、頭を垂れ手を合わせている。
「舟を迎える儀式や」
舟を編んでくれた人たちに、お礼を込めて頭を下げる。
ありがとうと手を合わす。
舟を運んでくるのは、10人くらいか。
人垣に阻まれて、あまりよくは見えないが、前を行く人が提灯をかかげ、その後に、花や小さな提灯で色鮮やかに飾られた舟を、担いだ人たちが続く。
ああ、あんなにきらびやかに、鮮やかに、飾られて・・・。
完成された2艘の舟は、昨夜、あたしが見た時よりも、さらに想いが込められている。