「そろそろ、行こか」
策作じいさんに促され、人垣を分ける。
が、なかなか、舟には近づけない。
仏さまへのお供え物を、舟に積む人たちが大勢いるからだ。
あたしも、ヒスイを積んでもらおう。
「落としてしまうとあかんので、わいの分も持っててくれんか」
と預かっていたヒスイ、策作じいさんに返さなきゃ。
「一緒にお供えしましょう」
手のひらの上の白いヒスイは、夕日を浴びて、ピンクに輝いている。
何度見ても、見飽きないほど、美しい。
「しのさん、絶対、よろこびますね」
「そやな、けど・・・、」策作じいさんの言葉が、つまる。
「・・・すまん」策作じいさんが頭を下げた。
「すまん?」
「わい、キツツキにウソついた。しのちゃんに持たせていきたい、いうんはウソぴょんや」
「ウソぴょん・・・ですか? でも、どうして、そんなウソぴょん、いえ、ウソを?」
「せやかて・・・」うつむく、策作じいさん。
「はい・・・」なにか深い事情がありそうだ。
「そうゆうたほうが、ちょっと・・・」
「ちょっと・・・、なんですか?」
「男のロマンっぽいやろ?」
「って、ええええーっ?」
呆れて、開いた口が塞がらなくて、涎が垂れそうです。
「で、ほんとは? さっさと白状してください!」
「東雲東雲に見せたかったんや」
「シノノメ トウウンて、あの、ライバルの?」
「そや。そやから、落とさんようにな、あいつに見せつけたるんやさかい」
呆れて、開いた口はまだ塞がらないけど、ちょっと笑える。
賢作さんとのお別れの時は、そこまで来てるというのに、ちょっと笑える。
策作じいさんと話していると、ムカつくけれど、元気になる。
絶対、声には出したくないけど、ありがとう!