ぜんぜん不思議じゃなかった3日間(15/15)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

「ごめんください」
表から声をかける。
「ほーい」
「東雲東雲さんはいらっしゃいますか?」
「トウウンは、わいや。ちょっと、待っててや」
出てきたのは、あの自転車屋のじいさんだ。
でも、もう、驚きは、しない。
驚きは、しない。

「おはようございます!」
「ほい、おはようさん。・・・んっ、あんたは、あん時のねえちゃんやないか」
「はい。先日は、きれいなヒスイをありがとうございました」
「なんの。こっちこそ、えらい世話になった。ありがとさん。・・・あんた、わざわざ、それを言いにきたんかいな?」

「あっ、いえ、あの」
「なんや?」
「あのヒスイをいただく時に、持ってても、しゃない、っておっしゃっていましたが」
「あんた、わざわざ、そんなことを聞きにきたんかいな?」
「あっ、いえ、でも、お聞きしたいです」
「それはやな・・・」
東雲さんは、ちょっと口ごもり、
「・・・見せつけてやりたい相手が逝ってしもたからや。策作のばかもんが・・・」
ぼそぼそと言った。

策作じいさんだけではなくて、お互いにライバル視してたんだ・・・。
「わいら、こどもの時から、いろいろ競争しとったんや。ここしばらくは、ヒスイ探しにハマっててなぁ・・・」
どんな戦いが繰り広げられてきたのか、いつか、聞かせてほしいものだ。
「・・・策作がおらんようになって、面倒くさいことなんものうなって、スカッとはしたんやけど、・・・ほんでも、おもろない」

そうですか・・・、
でも、その言い方、ぜんぜんスカッと感ありませんから!
でも、おもろないって気持ちは、凄くよくわかります。
・・・心の中でつぶやいて、
「東雲さん。そんなことおっしゃらず、どんどん見せつけてあげればいいと思います! これ以上の物を探して、見せつけてあげてください」
と策作じいさんから預かっていたヒスイを見せる。

「うっ、ええヒスイや・・・。これ、どうしたんや?」
と問われ、策作じいさんに出会ってからの経緯をかいつまむ。
自分で語っていても、眉に唾をつけたくなってくるが、東雲さんは信じてくれたと思う。
東雲さんの目が、一瞬、炎と燃えたから。
「では、おじゃましました」
帰ろうとして、ふと、もう一つ聞きたいことを思いつく。

「あのう・・・、去年、何かありましたか?」
「去年?」
「はい」
「ぎっくり腰になったくらいかなぁ」
「そうですか・・・」
もう、策作じいさんときたら!
あたしの早とちり、上手く利用しましたね!

「あれは、わいの同級生で、去年・・・」
なんて言いかけて、宙、睨んだりするから、あたしはてっきり・・・。
ほんとに、まったく、怒る気もしないけど、呆れる。
呆れながら外に出る。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。